映画『FAKE』を語る(下) ※ネタバレあり

好きな人と観てほしい映画

映画『FAKE』を語る(上)のつづき。

佐村河内守のドキュメンタリー映画で、まさか涙するなんて夢にも思いませんでした。この映画は佐村河内氏ではなく、佐村河内夫妻の映画です。劇中でカメラをもつ監督も「僕はね、二人(夫婦)を撮りたいんだと気づいた」と言っています。

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映画を観おわった後、別バージョンのポスターを見ると、しっかり書いてありました。「好きな人と観に来てほしい、これはふたりの物語」

真実 VS ウソ

この映画を観るために、多少は一連の騒動についてしらべておこうと記事を読んでおきました。佐村河内氏のことで知りたいのは、

・耳は本当に聞こえていないのか?
・作曲能力があるのか?

ゴーストライター騒動時に新垣氏、佐村河内氏ともに1度ずつ記者会見を行っています。

・聴覚障害について

新垣氏の主張:彼(佐村河内氏)に聴覚障害があるという認識はなかった。やりとりは通常の会話で行い、手話通訳者など見たこともない。
佐村河内氏の主張:「感音性難聴」と診断されたことや、聞こえる音と聞こえない音があることを主張。新垣氏とは筆談でのやりとりや手話通訳者を交えて会話していた。

・作曲能力について

新垣氏の主張:彼は譜面も読めず、楽器もできない。「指示書」の制作は作曲行為とは認められない。
佐村河内氏の主張:新垣氏にはデモテープと指示書を提出し、作曲を依頼した。作曲行為の半分を担っている。共同作曲である。

事前に調べただけでも、これだけ意見が対立しています。どちらかがウソをついているということになります。

当然この映画を観るとき、佐村河内氏の言動に自ずと注目してしまいます。ウソを見破ろうという気持ちもあり、ある程度テンションをキープしたまま集中して見入ってしまいました。

信じる VS 信じない

監督自身が一連の騒動を追及しようとする姿勢は強く感じません。そもそも”全聾の作曲家”としてNHKの番組にも出演していましたので、全聾ではなかったというウソは明らかです。しかし、その点に触れることもありません。

「聞こえる」「聞こえない」の二元論で片づけることはできず、どう聞こえているかは本人にしかわからない部分もあります。監督は医師の診断と本人の訴えを信じると言いました。「信じなきゃ撮れないですよ。」と。

作曲能力への突っ込んだ質問は、取材に訪れた外国人記者がバシバシ投げかけています。そのときの佐村河内氏の様子をみると、なんとなく伝わるものがあり、観る側の判断にゆだねている場面になっています。

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私は時間が経つにつれ、佐村河内守とその妻に興味が移っていました。これまでの報道では語られていない「佐村河内守」の姿が徐々にあらわになっていきます。ププッと笑えたり、少し子どもっぽいところや、カメラを意識した言動などもありました。

そんな佐村河内氏の人間味のある姿を見るうちに、真実とウソを追及する視点から、この人をどこまで信じられるだろうかという視点へと変わっていきました。

夫婦の絆

私はこの映画のテーマを「夫婦の絆」だと感じました。

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映画の中で、佐村河内氏に妻への愛と感謝を言葉として口に出すよう監督が促すシーンがあります。妻に伝えた感謝の言葉にはウソがないと感じ、思わず涙してしまいました。つらい時期を共にすごしてきた同士としての絆を強く感じるシーンでもありました。

ただ、これも素直に受け取ってはいけないのかもしれません。純粋に夫婦愛としての絆なのか夫婦で隠し事を共有している絆なのか。

森監督がFAKE ?

本作のクライマックスを見て思い出すのは、テレビドキュメンタリーで放送された「職業欄はエスパー」です。超能力者3名を追ったドキュメンタリーですが、その中の一人にカメラの前で超能力を披露してもらいます。
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森監督とは時間をかけ信頼関係を築き、「森さんのように超能力を信じている人の前だとやりやすい。」と発言をした時、森監督はこう言い放ったのです。

「僕は信じてないですよ。」

で、そのままエンディング。

「ええーっ!!」そんなのあり?と衝撃を受けたことを思い出します。

こういうことを作為的にやってしまう(もしくは天然)監督なので、衝撃のラスト12分間への期待も高まっていきます。

誰にも言わないでください、衝撃のラスト12分間。

この映画、1年間にわたって佐村河内守を追ったドキュメンタリーですが、監督が唯一迫ったのは「作曲能力があるのか?」という点。その答えが衝撃のラスト12分へとつながっていきます。

実際のところ、私にとっては衝撃のラスト12分とはなりませんでした。なんなら、この映画で唯一、気をゆるめ寝てしまったほどです。

ネタバレしちゃいますが、この12分間は、佐村河内氏が森監督に迫られて購入したシンセサイザーで作曲を行い、その曲を披露した12分間。

音楽の専門家でもないど素人の感想としては、なんか飾りをいっぱいつけてる感じのメロディーだなと思いました。すごいのかすごくないのかわからないのです。

その完成したメロディーを聞いた奥さん、森監督ともに無言で感想を述べていません。一方の佐村河内氏はとても満足し、興奮気味に話す様子が印象的でした。

作った曲や佐村河内氏の反応をみて、作曲能力の有無を観客が判断すればいい、そんなメッセージにも感じました。

しかし、そもそも佐村河内氏の作曲ではないかもしれません。「衝撃のラスト12分間」こそがFAKEなのかもしれません。この曲を新垣氏が作曲してたら衝撃だなとか、妄想は尽きません。

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私にとっての衝撃はラスト12分間ではなく、ラストカットにありました。エンドロールが流れた後のシーン、森監督らしい最後の質問。即答できない佐村河内氏。この反応のみがFAKEではなかったのかもしれません。

この映画から学んだこと

この映画を「真実を追求したドキュメンタリー」として観るとつまらないものになります。娯楽映画として観ることで学ぶことや自分を振りかえる機会にもなります。

私がメディアの報道で目にし、耳にした「佐村河内守」は、彼の一部分であったこと、それがすべてではなかったことがわかりました。そして、それらの報道をいつのまにか、無意識のうちに「その人のすべて」だと思ってしまっていること。気を抜くと、そうやって他人を安易に判断してしまっているんだと気付きます。

当然ですが、人間にはいろんな一面があります。

優しい、声が大きい、ケチ、気が利く、自分のことを優先してしまう、話をしっかり聞いてくれる、すぐすねる・・いろんな一面を合わせて、ひとりの人間です。

いいところもあれば、ダメなところもあります。

そう、いいところもあれば、ダメなところもあります。

そう意識して他人と接することができるようになれればと思います。

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谷口 一也

はじめまして。谷口一也です。1979年愛媛県伊予市(中山町)で産声を上げました。 マイペースで我が道を行くB型。 育児と鍼灸に精を出す毎日です。 自宅での映画鑑賞やカフェ巡りが趣味。