養 or 治?
今月から始めたお灸教室。セルフケアとしてのお灸を伝える中で気づいたことをお伝えします。
お灸教室では、ツボを選んで位置を決めるのは鍼灸師。印をつけてもらったツボへお灸(台座灸)を置くことは本人が行うスタイルです。ですから完全なセルフケアとは言えません。
そのツボへ鍼灸師がお灸を置けば施術となり、本人が置けばセルフケアとなります。このような半セルフケアを教える中で、今一度、セルフケアや養生について考えることにしました。
誰が治しているのか
私は活法(かっぽう)と整動鍼(せいどうしん)という治療技術に出会って、治癒に対する考え方が変わりました。
活法では、人を治そうと考えることは傲慢である。他人にできるのは治すことではなく、治る力を引き出すこと。治療を施す者の役割は治癒へ向かう人を支えることだと学びました。
自分を治せるのは自分自身だけです。私が行う鍼灸は治癒への最短距離を示す役割だと認識できるようになりました。
お灸教室の参加者は、セルフケアに積極的で健康への関心も高い方々です。セルフケア・養生と治療の関係、ひとりでできることと、人の手を借りることの境目などもお伝えしたいと考えています。
養生には2つのタイプがある
「養生(ようじょう)」とは
「摂生」とは
日常的に使われる言葉として「セルフケア」もあります。
これらは『自分の体のために自分にできることをしよう』という意味の言葉。鍼灸治療の現場においても、患者さんとの会話にたびたび登場する内容でもあります。
「なにか自分でできることってないですか?」
「自宅でできるセルフケアを教えてくれませんか?」
「自宅でお灸してもいいですか?」
症状の改善に積極的な方や自分の健康に関心の高い方ほど、このような質問をいただくことがあります。しかし、次のように聞かれることは少ないです。
「なにか自分でやめれることってないですか?」
「自宅でやってはいけない動きや運動ってありますか?」
ここでひとつ気づくことがあります。何かをすることには積極的ですが、何かをやめる(やらない)ことには関心が低い。どちらのアプローチも大切なのですが、することばかり目を向けてしまうのはなぜなのでしょう?
やる養生
私たちは何かをすることで健康を維持しようとしがちです。それは、そのほうが簡単で楽だからです。今の自分に何か新しいこと(もの)を加える作業のほうが好きであり楽なのです。人間には少なからず、このような特徴が元々備わっているのではないでしょうか。
運動を始める。新しい健康法を始める。健康器具を買ってみる。テレビで良いと言っていた健康枕に買い替える。目の疲れに効くというサプリメントを飲んでみる・・。
私たちの生活は健康に関する情報で溢れています。テレビをつけても、雑誌をめくっても、ネットをのぞいても、いつも私たちは健康になるために行動することを絶えず勧められています。
今の自分に加える何かが必要だと無意識に感じている(感じさせられている)のです。
やめる養生
一方で、やめる養生もあります。ズバリ、食習慣や生活リズム、嗜好、環境を見直すことです。
夜更かしをして睡眠不足だったり、デスクワーク中の姿勢が悪くて肩こりを感じていたり、タバコやお酒の飲みすぎで内臓が不調になっていたり、スマートフォンを何時間も触って肩こりや目の疲れを感じていたり・・・。探せばいくらでも出てきます。
やる養生とやめる養生、まず目を向けるべきは後者です。やめる養生ができていないのに、やる養生をがんばっても思うように改善しないことが多くあります。
やめる養生は健康の土台づくり
やめる養生は治療効果をも高める身体の土台となる取り組みです。
でも、これが難しいんですよね。
やることとやめることなら、やめる(やらない)ことのほうが難しいです。なぜなら、今の自分を変える必要があるからです。今まで慣れ親しんできた生活を変えることは口で言うほど容易ではありません。
だからこそ、「やめる養生」を実行できれば、現状を変える(症状を軽減させる)ことにつながるとも言えます。
あなたもセルフケアをしたいと思うのであれば、やる養生とやめる養生をセットで実行することをお勧めします。あなたの「やめる養生」には何があるでしょうか?ぜひ、紙に書き出してみてください。

谷口 一也

最新記事 by 谷口 一也 (全て見る)
- レンズ越しの感動 - 2021年7月29日
- 自動車クソ素人の僕がシトロエンC3を1年乗った感想 - 2021年2月10日
- 意思や行動も大切だけど、環境はもっと大事 - 2019年11月8日