頻尿から『ボクたちはみんな大人になれなかった』まで

東京へ向かう上空で私は笑いを必死にこらえていた。

機内でパラパラと週刊SPA!をめくり「映画館の席はいつも端に座ることにしている」と題されたコラムにくぎ付けとなった。

書いた人は「燃え殻」という変な名前の男性だった。

頻尿

コラムの内容は、

頻尿だから映画館の席は端にすわること。映画の途中は我慢に我慢を重ねた結果、クライマックスには自分の膀胱もクライマックスを迎え、一番大事なシーンでトイレに立つこと。

飲み屋で相手が人生について真剣に話しているとき、自分はトイレに行きたいという感想しか持ち合わせていないこと。

相手が饒舌に話すほど、「それでそれで」「うんうん」とフライング気味に合いの手を入れまくり、なるべく話が早く終わるよう全力を尽くすこと。

自分以上に頻尿の女性に出会って、頻尿体験を恵比寿の焼き鳥屋で語りあったこと。お互いトイレに行き倒すから話の腰を折りまくったけれど、そこは頻尿同士、許し合い、譲り合い、良い関係が築けたこと。

私も40を前に、頻尿が加速している。

共感しすぎて笑いをこらえることできず、機内でグフッと声も漏らしてしまった(尿は漏れていない)。

燃え殻さんの文章に一気に引き込まれた。

燃え殻

燃え殻
1973年生まれ。テレビ美術制作会社に務める会社員。独特な世界観のツイートが人気を呼び、Twitterのフォロワーは22万人を超える。2017年6月、初の小説となる「ボクたちはみんな大人になれなかった」を発売。


小説も書いていることを初めて知った。昨年ベストセラーになり注目を集めた作品のようで、さっそく文庫本を買って読んでみた。

ボクたちはみんな大人になれなかった

90年代後半の東京を舞台に20代の燃え殻さんの恋愛を中心に展開する私小説だ。

随所に登場するサブカル描写は、自分にとっては10代後半に出会った青春そのもの。

小沢健二に出会い、UAを聴き、買えもしない「A BATHING APE」に憧れた。すさんだ青春を肯定してくれた『トレインスポッティング』のポスターを部屋に貼っていた。1999年ノストラダムスの大予言には密かに恐れ、死ぬ前に彼女がほしいと悩んだあの夏を思い出した。あっ、これは自分の話。

ボクがはじめて「自分より好きになった人」である彼女との日々が書かれた小説だった。燃え殻さんにとって彼女がすべてだったことが正直に綴られている。

ドキッとする表現が多くて途中から赤ペンで線を引きながら読んでしまった。

たとえば、

美味しいもの、 美しいもの、面白いものに出会った時、これを知ったら絶対喜ぶなという人が近くにいることを、ボクは幸せと呼びたい。
引用元:ボクたちはみんな大人になれなかった/燃え殻

生きていると言葉なんかじゃ救われない事ばかりだ。ただその時に寄り添ってくれる人がひとりいれば、言葉なんておしまいでいい。

引用元:ボクたちはみんな大人になれなかった/燃え殻

頻尿コラムから、まさか恋愛小説にたどり着くとは思わなかった。けど、物語の面白さに引き込まれ、当時の東京に迷い込んだような気分になれた。

しばらく脳内に残る余韻は映画後のそれとは一味ちがって心地いい。

思わず当時を振り返って自分語りをしてしまう。この小説のパワーはそこにあるような気がする。レビューを見れば、私と同じようにみんな当時を思い出し自分語りしている(笑)

さっと読める量なので、まだ読んでいないアラフォー世代の方、おススメです!グッときます。

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谷口 一也

谷口 一也

はじめまして。谷口一也です。1979年生まれ。愛媛県在住。 マイペースで我が道を行くB型。 育児と鍼灸に精を出す毎日です。 自宅での映画鑑賞やカフェ巡りが趣味。