『自分を捨てる仕事術』を読んで

自分を捨てる?


今まで私は、いかに自分を表現するか、そう考えてきました。

鍼灸師の仕事は、目に見えるモノを提供しているわけではありません。私の技術が役に立つかどうか、鍼を受ける前に判断してもらうことになります。そのためには、あらゆる情報をこちらからも発信する必要があります。

特に、「誰が」鍼を施術するのか。それは受ける側にとって重要な要素だと考えます。そのために「自分を表現すること」を意識してきました。

今回ご紹介する書籍は、『自分を捨てる仕事術』(著者:石井朋彦)です。私の考えていたこととは全く逆のタイトルだったので、思わず手にとりました。

「自分を捨てる仕事術」

著者(石井朋彦)は、アニメーション映画プロデューサー。21歳でスタジオジブリに入社し、鈴木敏夫さんの下で6年間を過ごす。『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』等のプロデューサー補を務めた。退社後、株式会社クラフター取締役プロデューサーとして活躍中。

自分を捨てろ


スタジオジブリの代表でもあり名プロデューサーである鈴木敏夫氏の下で学んだことを、著者はノートに書き留めていました。そのノートは段ボール数箱分にも及びます。本書はそれら鈴木さんの言葉を1冊にまとめたものだと著者は語ります。

鈴木さんが教えてくれた「仕事術」。それは、ゼロから1を生み出す、クリエイティブな発想術でも、完璧なクリエイター&ビジネス集団をつくる組織論でもありません。

「自分を捨てて他人の真似をする」という仕事術です。(P9より)

「はじめに」の中で、この本で伝えたいことはこれだと宣言しています。

鈴木さんや、優れたクリエイターと共に仕事をしてきた20年弱、天才と呼ばれる人が共通して持っていたのは、「自分を捨て、だれかのために仕事をする」というあり方でした。

自分なんてどこにもない。
自分のなかには何もない。
何かあるとしたら、それは外、つまり他人のなかである。(P11より)

このことを自覚することで、生きること、仕事をすることが楽しくなると書かれています。本書の1章「自分を捨てて他人を真似る」から他者を真似るポイントを引き出してみたいと思います。

自分のために仕事をしない

本書に紹介される名プロデューサー鈴木敏夫氏の言葉からは一貫して「自分を信用していない」ことがうかがえます。

他者との交流の中から生まれるアイデアや仕事を、より信用している印象です。自分の中に何もなにのに、自分のやり方にこだわるから苦しいのだ、とも言っています。

著者は、ジブリ退職後に大きな仕事を任されたものの、何をやってもうまくいかない時があったそうです。1から10まで自分でやろうとし、自分の考えでコントロールしようとしていました。そんな時に見返した鈴木語録のノートには次のようなエピソードがありました。

「おれも宮さん(宮崎駿)もさ、昔から他人のために仕事してきたんだよ。・・(中略)・・宮さんも監督になんてなりたくなかった。一生アニメーターで終わっていいと思ってたんだ。でも高畑さんの下でアニメーターをやってるうちに、いつの間にか監督になっちゃった。宮さんもおれも、自分からいまの仕事につこうと思ったわけじゃない」(P42より)

鈴木さんも宮崎さんも、自分のためではなく、まわりのために、そして最終的には作品をみてくれるお客さんのために映画と向き合っている。著者は、いつの間にか「責任感」と「自己肯定」をはき違え、自分のことばかり考えて仕事をしていたことに気付いたと記しています。

それから著者は、自分発の企画ではなく、自分のことを必要としてくれている人からもたらされた企画を片っ端から受けるようにしました。その効果は劇的で、良い仕事ができるようになったといいます。よく鈴木さんは、「自分のモチベーションとか、成功とか、自己実現とか、そういうものにこだわりすぎる人は、どんどん心が狭くなる」と言っていたそうです。

人を真似る

自分を捨てて、他人の真似をする。こう表現すると「プライドを捨てる」と感じるかもしれません。しかし、小さなプライドのために心を閉ざし、自分にしがみつくことに意味はない。自分と向き合っていても、よく知っている自分がそこにいるだけ。と著者は言います。

人の真似をすることに抵抗感を覚えるとき、こう自分に問うのだと言います。

いまの自分のやり方の先に、劇的に状況を変える可能性が、どれくらい残されているのか?」と。

また、「人を真似る」ための2つのポイントは、

・利己的に真似せよ
・常に素直であれ

いくら自分を捨てよと言われても、「自分ならこう思う」と自我がむくむくと顔を出す場面もあります。これは危険信号。深呼吸して「自分のために他人の真似をするんだ」と、自分に対して言ってやることがポイントだと言います。

2つ目は、「教わるにも、学ぶにも、真似るにも才能がいる。才能とは、常に素直でいることです。」と述べています。自分を捨てる、というとネガティブに聞こえますが「常に素直でいる」「外に対して心を開いている」と言い換えればよいのかもしれません。

まとめ

この本の中で、強く印象に残っている鈴木敏夫さんの言葉を紹介します。

「人は、自分のために他者を必要とするし、他者に必要とされる自分が自分なんだよ。」

自分を捨て、他者の生き方を真似、自分に本来備わっているものを見据える。そのために人は、だれかを必要とするのだと思います。だからこそ一度「自分を捨てる」必要があり、「だれかを真似る」ことで自分を知り、他者に対する尊敬の念も獲得する。それが人生における「学び」であり、仕事を楽しむ唯一の方法です。(「おわりに」より)

おまけ

私が実践している「真似」は、尊敬する人たちと同じ本を読むことです。(おっ、自我が出てきました)幸いなことに私の周りには真似をしたい人が何人もいます。

尊敬する人たちが「読んで面白かったよ」と言えば即買ってみます。(即読んでいるとは言えませんが)

面白い映画だったと聞けば、見るようにしています。本を読んだり、映画を見ることは難しいことではありません。この2つを真似することで、尊敬する人に近づけると思えばワクワクしますし、簡単なことです。

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谷口 一也

はじめまして。谷口一也です。1979年愛媛県伊予市(中山町)で産声を上げました。 マイペースで我が道を行くB型。 育児と鍼灸に精を出す毎日です。 自宅での映画鑑賞やカフェ巡りが趣味。